トラウマについて(U)
Kristensen,H.(2000):「場面緘黙症と発達障害/遅れ、不安障害、排泄障害の併存」
”SM and comorbidity with developmental disorder/delay,anxiety disorder,and
elimination disorder”.J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 39:249-256,2000.
は、場面緘黙児と対照群(緘黙症でない子ども)との比較研究です。
対象の場面緘黙児は、DSMWで抽出。場面緘黙症は、コミュニケーション障害とアスペルガー症候群はDSMW診断時除外されるはずですが、この研究では含まれています。結果は以下の通り。
@ 場面緘黙の症状があるこどものうちの半分の子どもに、何らかの
コミュニケーション障害がある。
(受容−表出性混合言語障害・表出性言語障害・構音障害・吃音)
A以下のような「発達的な障害」がある子どもが、全体の68.5%とかなりの割合で見られる。
コミュニケーション障害 約50%
発達性協調障害 17%
慢性チック 1.9%(検査中にチック見られた子どもは9.3%)
軽度発達遅滞 7.7%
アスペルガー症候群 7.4%
B 排せつ障害(遺尿29.6%・遺糞14.8%)
C 不安障害は全体の74.1%とかなりの割合で見られる。
分離不安 31.5%
特定恐怖 13.0%
社会恐怖 67.7%
全般性不安障害 13.0%
強迫性障害 9.3%
D コミュニケーション障害と不安障害の合併が46.3%
考察:多くの研究者が、場面緘黙という症状を複数の要因が原因で生じると考えている。場面緘黙症は単一の障害ではなく、子どもによってそれぞれ異なった不具合(脆弱性)を根底にもって起きてきた不安の症状の1つである。
生物学的な未成熟が緘黙症状の形成にどのように影響したか。1つまた、複数の分野で未成熟な機能を持つ子どもは、しばしば彼らの機能レベルを越えるような要求をされる。
これらの子ども達の共通点は、このような神経発達の未成熟があると「everyday trauma(日常的なトラウマ)」を受けやすく、新しい物に対して不安を感じたり、引っ込んでしまう反応をしがちという点である。
場面緘黙児はそれぞれ異なっていて、その子のどこか特定の部位の神経系の未発達が、緘黙の発症に影響しているのではないかという論文です。この論文、私としては、とてもぴったりきます。そして、この論文の考察にある「everyday trauma(日常的なトラウマ)」という表現にもはっとさせられました。
Dummit et al.(1997)の研究では、調査した場面緘黙児(50人)の中に、トラウマの経験を持つ者が全くいなかったとありますが、トラウマとトラウマティックな体験は連続しているだろうけれど、区別しなくてはならないと思います。「トラウマ」という言葉は、最近日常的に使われるようになってきていますが、厳密には、死の恐怖を伴うショック体験で、記憶の反復的な想起や解離傾向を引き起こす心的外傷体験を言います。
「1つまた、複数の分野で未成熟な機能を持つ子どもは、
しばしば彼らの機能レベルを越えるような要求をされる。」
これだ今一般に「発達障害」といわれる、ADHD(注意欠陥多動性障害)やPDD(広汎性発達障害)やLD(学習障害)の子ども達と連続しています。彼らも発達のアンバランスさのために、傷つきやすさや生きにくさを持っています。これらの子ども達は「everyday trauma(日常的なトラウマ)」を受けやすい状態なのではないかと思います。それゆえに、環境から自分のやれること以上の要求をされがちで、失敗体験や脅かされ体験を積んでいってしまう。だから、緘黙の発症は、身体が緘黙によってそれ以上everyday traumaを受けることを防いだのではないかと思います。