トラウマについて(T)

 
現在、アメリカのSMartセンターやイギリスのSMIRAの資料では、場面緘黙症は、非常に感じやすく抑制的な気質が「遺伝的素因」としてあるのではないかと書かれています。
 そして、新生児の気質的素因についての研究(Kagan,J et al.2004)があげられ、もともと、新しい人や新しい状況に適応することが難しい「行動的に抑制されている」赤ちゃんがいて、これらの乳児の心拍数は他の子よりも高く、ストレス下ではさらに高くなることが書かれています。このような赤ちゃんは、新しいものに触れる時は、怖がらせないように、時間をかけて慣れるよう、注意して育ててあげる必要があります。
 
 SMartセンターとSMIRAでは、「トラウマ」「トラウマティックな体験」をめぐって記述に違いがあります。

アメリカのSMartセンターの資料(Knet配布資料No.1)には、「場面緘黙症の原因が虐待や育児放棄(ネグレクト)やトラウマ(心的外傷)である証拠は全くない、ということが多くの研究から明らかにされています」 と書かれています。

イギリスのSMIRA代表Alice さんの論文(Handbook of Social, Emotional and Behavioural Difficultiesの8章,2006)では、「過去のトラウマティックな出来事が情動記憶の中に記憶痕跡を残し、それが変化を拒絶する傾向を生み、脳の前頭前野にある意識的で合理的記憶と分離してしまうのではないか」という神経生理学者の研究仮説(Brawn,2003)が紹介されています。情動記憶というのは、エピソード記憶と違って意識化したり言語化することができず、何かのきっかけで呼び覚まされるような記憶です。この難しい文を無理やり簡単にしてしまうと、場面緘黙症の子どもは、トラウマティックな出来事の記憶による影響を受けやすいということになるかと思います。

 そもそも、この2つの資料では「トラウマ」「トラウマティックな体験」という用語の使い方が異なります。(これについては、ココでは省きます)
 アメリカではこれまで「全ての場面緘黙症は虐待やトラウマがあるはず」という誤解が広がっていたので、その誤解を正すために、SMartセンターの資料は「トラウマが原因とは言えない」という記述になったのでしょう。
 様々な体験がどのように子どもに影響を与えるかを考える時には、SMIRA代表Aliceさんの論文にそって考える方が良いように思います。



2007年6月9日

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