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2007年10月14日

場面緘黙と行動療法的アプローチ

場面緘黙の治療によく使われているのが、行動療法的なアプローチです。
緘黙児は学校や教室で話すことに大きな不安を感じているので、まず最も安心できる母親と一緒に誰もいない学校や教室に行って会話練習することを、多くの専門家が勧めています。場面緘黙の症状が現れる学校や教室で、話すことに少しずつ慣らして不安を軽減していくエクスポージャーという方法です。

アメリカのSMART-Centerの代表、エリザ・シポンブラム博士やイギリスで場面緘黙治療の第一人者といわれる言語療法士、マギー・ジョンソンさんが考案した治療方法も、行動療法の理論に基づいたものです。

興味深いのは、この二人はもともと場面緘黙の専門家だった訳ではなく、たまたま自分のお子さんが場面緘黙になってしまい、試行錯誤の末に独自の治療法を考案したことです。言い換えると、海外でも最近まで場面緘黙症とその治療法については、殆ど研究されてなかったのです。

かつてオステパシー(整骨医学)博士として活躍されていたシポンブラム博士の場合は、娘さんのソフィアちゃんが3歳の時に場面緘黙であることに気付きました。

家では利発でおしゃべりなのに、幼稚園では全く話さない。ひとりで孤立している状態が、1年以上も続きました。園に慣れてきて笑顔が出始めても、ゼスチャーでコミュニケーションを取るのみで、決して話すことはなかったのです。学校外で2、3人の親しい友達とは話しますが、家の外では親戚や友達と殆ど話せません。ソフィアちゃんの場面緘黙は、パーティーや親戚の集まりなどでも明らかだったといいます。

医学界に身をおいていた博士ですが、心配して相談に行った先々で、最初は「引っ込み思案なだけ、成長したらしゃべるようになる」といわれました。ある資料から『場面緘黙』という言葉を探し当て、診察の時にそう伝えても、「重度の学習障害がある」、「自閉症の一種だから、養護学校を考慮した方がいい」、「娘さんはわざとしゃべらない」など全く異なる診断を下され、医師達の知識に疑問を覚え、憤慨されたそうです。

ある晩、ソフィアちゃんと人形遊びをしていた彼女は、人形を使ってソフィアちゃんに何故話さないのかを訊ねてみました。すると、ソフィアちゃんは「ものすごくお話したいのに、どうしても言葉が出てこない」と苦しい胸のうちを訴えたのです。

この瞬間、博士はソフィアちゃんが話したくても、本当に話せないのだということを理解しました。彼女の人生はこの時から変りました。助けてくれる専門家がいないのなら、自分で治してあげるしかない、と仕事を辞めて場面緘黙の研究に専念し始めたのです。この時、ソフィアちゃんは5歳になっていました。

博士は数種類の行動療法の技法を用いて、学校と家でソフィアちゃんを援助する治療プログラムを作成し、ひと夏かけて治療に取り組みました。

その主な方法は、緘黙が実際に起こっている場面である教室にソフィアちゃんを連れて行き、会話の練習をするというものでした。担任となる先生にも協力を求め、一夏かけてクラスで母親や先生と話す練習をしたそうです。

新学年がスタートした初日にソフィアちゃんを学校へ連れて行った博士は、自身の緊張を悟られないように、「じゃあ、また後でね」と娘さんを送り出しました。それに応えて、ソフィアちゃんはそっと「バイ、マミー」と答え、先生と一緒に教室に入っていきました。博士の頭は、「ソフィアがしゃべった!」ということでいっぱいになり、感極まって泣いてしまったそうです。この時から、彼女はソフィアちゃんがもう大丈夫だと確信し、その後も自信をもって支援していくことができました。

場面緘黙の治療や支援は、それが起こっている現場である学校で行うことが、回復への近道とされています。母親との教室訪問だけでなく、先生と一緒に楽しい時間を過ごすなど、スモールステップを使って徐々に不安を減少させていく行動療法的なアプローチの有効性は、このエピソードでも裏づけされています。

 

シポンブラム博士の場面緘黙との出会い・治療法に関しては、下記の資料を参考にしています。
Knetでは、シポンブラム博士から、SMart CenterのHP記事をKnetサイト上で翻訳・公開する許可を得ています。

‘My daughter was truly suffering in silence’By Dr Elisa Shipon-Blum
Selective Mutism Anxiety Research and Treatment Center (SMart Center)のHP

http://selectivemutismcenter.org/personalstory.htm