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2008年4月19日

新しい学校環境に慣れるためにT

日本では4月1日を過ぎないと新担任が決まらないので、担任が決まってから、学校に場面緘黙の理解を得るために動かれる保護者も多いのではないかと思います。できれば、相談機関にかかって、医師や心理士から学校に資料を提出してもらったり、連絡してもらうとうまくいくかもしれません。
イギリスでは9月から新学年がスタートするので時期がずれますが、私が昨年新学期の準備として行なった事を書かせていただきます。結果的には、とても効果があったと思っています。日本とはシステムが違うのでできないことも多いと思うのですが、何か参考になることがあれば幸いです。
 
                            Knet事務局 みく(7歳男子の保護者・英国在住) 



1.先生に理解を求めましょう

イギリスでは小学校が幼児部(5〜7歳Infant School)とジュニアスクール(8〜11歳Junior School)に分かれています。息子の学校の場合、敷地は同じですが、校舎は別々で校長や教師陣も異なります。
息子は8月生れなので、昨年9月に7歳になったばかりでジュニアスクールに入りました。
日本でいうと1年生です。息子のクラスは、30人のうち特別支援教育のリストに載っている子が10人以上いるため(多いです)、学校から場面緘黙がかなり快復したと思われている息子は、あまり支援を受けられない状態。放っておくとジュニアスクールでも同じような扱いになることが心配されました。
幸いクラスはずっと変わりませんが、新しい校舎や教師陣と変化が大きく、年上の男の子に対する不安もあったので、症状が大きく後退することもあると危惧し、幼児部最後の3学期(日本では年長)に入ってから学校へのアピールを開始。 入学前に、夫婦でジュニアスクールのSENCO(特別支援教育コーディネーター)に相談に行きました。
(母親だけより、父親も一緒の方が学校側も真剣に受け止めてくれるような気がします)。

<持参したもの>

@場面緘黙の資料(日本だったら、学校用のKnet資料がいいと思います。) 
 

:教師は多忙なのであまり長すぎると読んでいただけない可能性ありです。本などは興味を持っていただいた時にお貸しした方が良さそうです。
(うちは、幼児部年長にあがった際にSENCOから「スタッフ教育のために資料を貸して」と頼まれ、本とDVDを提出しましたが、担任達は半年も借りていながら見てくれてなかったようです。)

Aお願いしたい事項をまとめた手紙(資料に書いてある場合は、必要ないですね)

息子が場面緘黙であること。
症状の簡単な説明及びしてはいけないことを、担任だけでなく学校のスタッフ全員に伝えて欲しいこと。
友達関係は上手く行っているか、トイレや昼食は大丈夫かなど、特に担任に注意してみてもらいたいこと。
年上の男の子に対する恐怖感があるので、お世話係を選ぶ際はなるべく温和で世話好きの子を選んで欲しいこと。
席を決める際に、なるべく仲の良い子の近くにして欲しいこと
(仲のいい4人の子どもの名前を書いておきました。が、これはやってもらえませんでした)

小学校にあがるお子さんの場合、自分からトイレに行けないことが多いようです。ずっと我慢しているだけではなく、水分を摂らないようにしたり、給食を食べないということもあると思うので、要注意です。担任が声をかけてクラス全員にトイレに行かせたり、個別に声をかけてくれるようお願いしておくといいかもしれません。
お漏らししてしまうと、それだけで注目されますし、子どもも切ないと思うので、事故が起こらないように注意してもらいましょう。
また、緊張して給食が食べられない、皆と一緒に着替えができないお子さんもいるかと思います。いずれも、早い段階で見つけることができると、対策も早く立てられるはずです。


B息子の特徴や苦手なことを簡単にまとめた資料

現在の緘黙の状態と、息子の性格や苦手なこと、良いと思われる接し方を説明 (緘黙児はそれぞれ違います。自分の子供の特徴と、新学期で問題になると予測されるような事柄を伝えておくと、先生も心の準備がしやすいと思います)。

新担任に慣れてないので、小声からささやき声に後退する可能性があること。
先学期の目標が「出席の返事をする」だったので、息子の近くに行ってくれれば耳元でささやけるかもしれないこと。
今までの経験から1学期は学習面でも問題が(失敗を恐れて、課題をやりたがらない、取り掛かるのが遅い、スペリングが苦手なので同じような文章ばかり書くなど)でるかもしれないため、さり気なく声をかけて欲しいこと。
全体の中で目立つのが嫌いなので、何かできてもできなくても、比較的さらっと流して、誉める時はクラス全体というよりも個人的にして欲しいこと。


息子の場合、この時点で友達との会話や行動はOKだったのですが、先学年は担任になかなかなじめず、質問の返事や必要事項は言えるものの、読本は声が小さく、出席の返事や普通に話すことはできていませんでした。

<話した内容>

お渡しした書類を簡単に説明して、重要点を強調しました。
また、新しい環境になじませるため、3学期中と夏休み中に教室訪問させていただきたいことと、新学年が始まる前に新しい担任に会わせていただきたいとお願いしました。
場面緘黙児は他の子どもに迷惑をかけたり、授業の妨害になることが少ないので、クラスに他の問題を持つ子どもがいる場合、先生の目が届かないこともあるかと思います。少し話し始めた子どもでも、フォローアップが必要です。何しろ場面緘黙に関する知識が浸透していないので、保護者が学校側にアピールしておくのは、大切じゃないかなと思います。



2.新しい学校と教室訪問

私が昨年9月の新学年に備えて行った教室訪問と入学前の夏休みの活動について書かせていただきます。     

うちの息子の場合、新しく入るジュニアスクールの校舎は幼児部と隣合わせで、既に時々行き来があったのは、とてもラッキーでした。また、クラスは持ち上がりなので、担任と学校・教室が変わるだけです。しかし、そうはいっても適応に時間がかかる息子を、いち早く新しい環境に慣らしておくことは必須だと思いました。後退を食い止めたいという気持ちと同時に、それまでできなかった「出席の返事」を始めるいい機会でもあるな、と思っていました。

息子は昨年夏に7歳になりました。プレ思春期と呼ばれる小学校3年生頃から、緘黙が固定化する可能性が高く、症状の改善が難しい年になるといわれています。イギリスでは、8歳(になる年)から11歳までの4年間がジュニアスクールで、次はセカンダリーと呼ばれる中・高等学校(16歳まで)にあがります。

息子は昨年秋の時点で、友達とは大丈夫だけど、担任とのコミュニケーションはまだまだ…(質問には答えるけれど返事が短い、読本も小声、必要事項は話すけれど、できるだけ先生を避ける傾向。幼児部最後の1年間は、ほとんど平行線で進歩があまり見られなかったような気がします)。

この移行で先生との関係がうまく改善しなかったら、そろそろ先生も引き入れて、行動療法的なアプローチをしていく必要があるかな、と思っていました。今までも放課後に教室訪問をしていましたが、もっと計画的に担任と話せるようにしていく時期に来てるかも、と考えたのです。

4歳半の頃に場面緘黙が浮上したので、既に緘黙生活も2年半…。「話す」というプレッシャーを与えないようにして、少しずつ、ゆっくりと改善してきましたが、イギリスの他の学校で実行しているような、週に2度TAがキーワーカーとなって学校での治療に取り組む形だと、もっと改善が速いのです。この移行で後退するか、前進するか、分かれ目だなという気がしていました。

何度か特別支援教育コーディネーターSENCOに連絡して(先生は多忙なので、連絡を待っているだけだと後回しにされる可能性ありです)、3学期が終わる2週間前から週に2回、放課後新しい教室を訪問せてもらえることになりました。また、始業式前に(イギリスは入学式のような大げさなものはないです)、担任に会わせて欲しいというリクエストに関しては、「保障できないけれど、教室を訪問する日を伝えておきます。何回か会うことができると思います」ということでした。

<教室訪問の目的>

なるべく早く新しい学校・教室・担任に慣れさせる
新しい教室で声を出すことに慣れさせる
学校内や教室内を映像や写真に収め(学校から許可を得ました)、夏休みの間も映像を見て、忘れないようにする
(担任とはまだ面識がなく、放課後教室にいるか判らなかっため、担任と話ができるようにすることは考えませんでした)。


<教室訪問の様子>

@教室訪問一回目  

息子を連れて新教室に行くと、たまたま新担任がいて、ちょっとビックリ(2年連続で同じ学年・教室を担当することになったらしいです)。後から解ったのですが、職員会議がない限り、各担任は大体放課後30分〜1時間くらい教室で翌日の準備をしたり、他の先生と打ち合わせをすることが多いのだとか。
息子は私には耳打ちで、新担任には一言も口をききませんでしたが、彼女の話しかけに対して、頷いたり指差したりの動作はとてもリラックスした感じでした。


SENCOを通して「知らない人にじっと見られるのが苦手」と報告してあったためか、新担任は息子に話しかける時、自然な感じで視線を外してくれました。教室に飾ってあった子ども達の作品を息子に見せてくれたのですが、横に並んで色々説明し、最後に実験で使ったプラスティックの注射器を息子にくれたのです。その時の話しかけ方がとても自然で、引っ込み思案の子どもの扱いに慣れてるな、という印象を受けました。

それまでの1年間、毎週放課後に担任と接する機会を作ろうと努力してきましたが、担任は常に息子の前に立って、いつも上から見下ろす感じで、先生口調で話してたように思います。いつも、息子の緊張感が伝わってきました。
大人が子どもの目線まで降りてきてくれること、面と向かうのではなく、横にきて話しかけてくれること、先生(権威者)の口調でものを言わないことも、緘黙児にとっては大きいかもしれません。

新担任は教師生活2年目のかわいらしい女性で、静かな口調で接し方がとても自然でした(厳しく叱ることもありますが、前の担任のように怒鳴ったりしません)。心の中で、「この先生大当たりだな」と思いました。

A教室訪問二回目

この日担任はいませんでした。ビデオカメラを持参したので、教室内はもちろん、廊下やトイレまで撮影しました。教室では、椅子に座って息子と色々オシャベリをしました。担任がいないので随分リラックスした様子でした。

B教室訪問三回目

家に遊びにくる予定だった友達も連れて3人で訪問。この時も新担任が教室にいて、初対面だったためか友達の方が緊張してました。彼が先生に名前を聞かれて、つぶやき声で答えたのを見て、「普通の子でも新しい環境・人には緊張する」という当たり前の事実を再確認したような気がしました。そうです。普通の子でも緊張するんだから、緊張しやすく場慣れが悪い緘黙児は、もっともっと緊張するのです。 息子は既に2度来て慣れていたためか、先生がいても友達に色々説明しながら小声で話してました。

C教室訪問四回目

この日は教室で送別パーティーをしたらしく、教室内はゴミだらけ(教室掃除とか給食当番がない、イギリスならではですね)。おまけに、他のクラスの先生方もいました。息子は最初かなり緊張。途中で担任たちがいなくなり、この日はデジカメを持参したので、息子が教室を撮影。驚いたことに、最後のほうでは、戻ってきた担任たちを撮影してました。息子の学年は新米の女性教師が担当するらしく、若い女の先生ばかりで、お姉さん的な雰囲気も影響してたと思います。

D教室訪問五回目(入学前日)

この日は30分以上、誰もいない教室で落ち着いておしゃべりできました。試しに出席を取る真似をしてみたら、初めて教室で「○○先生、おはようございます」と言う事ができました。それまで、何度か練習しようと試みたのですが、「嫌だ」と即座に拒否。ここに来て、息子の心の準備ができたのかもしれません。何度もやると、うちの子はかえって意識してしまうので、ちょっと褒めて一回だけでやめました。教室訪問の後は、クラスメート達7人が集まって、公園で一緒に遊びました。他のお母さんたちも、新学期の前に子どもの緊張をほぐそうと考えているようで、長い休み明けの前日には、大体誘い合って一緒に遊ばせるパターンができています。


3.入学前の夏休みの活動

@学校で開催されるサマースクール(遊び中心)に週2回参加させる

夏休みの行事として、毎年必ず友達と参加するようにしています。一番頼りにしていた友達とは日程が合いませんでしたが、クラスメートで参加している子がチラホラいたので、割と楽しく参加できたようです。迎えに行くと、友達と遊んでいたり、一人で何か作っていたり。スタッフとも口数は少ないながら普通に話すようになり、知らない子と話していることもありました。

Aクラスメートと頻繁に遊ばせる

一番頼りにしていた友達が他のグループに移ってしまったため、普段あまり遊ばない友達や、3学期に親しくなった女の子の友達とも遊べるように、私が約束を取り付けました。結果的に、一番頼りにしていた友達がまた戻ってきてくれて、彼とも一緒に遊ぶことができました。
色々な友達と公園でキックボードをしたのですが、競争意識からか運動が苦手な息子もかなりスピードが出せるようになりました。また、自分でアイスクリームを注文できるようになったり、初めての行った友達の家で、それまで話したことがなかったお母さんと話したりと、収穫が大きかったと思います。もうひとつ大きかったのは、補助輪なしで自転車に乗れるようになったことで、かなり自信がついたようでした。


教室訪問の結果なのか、息子が成長したためか、新学期の初日に初めて出席の返事ができました(4歳半で入学してから5週間は返事をしていたので、厳密に言うと初めてではありませんが、2年半ぶりです。本当に嬉しかったです)。

家で返事をするように言い聞かせていた訳ではないので、息子が自分の意思で返事をした部分が大きかったように思います。新担任に「出席を取るときは、息子が声を出しやすいように、できるだけ近くに行ってください」とお願いしておいたのも、効果があったと思います。

こうして、息子は新しい環境でも後退することなく新学年をスタートすることができました。出席の返事だけでなく、1学期の終わりには読本も普通の声で自信を持って読めるようになり、たまに自分から挙手して答えたりもするようになりました。なによりも、学校生活を楽しんでいるのが、親としては嬉しいです。

教室訪問というと「会話の練習」というイメージが強いかもしれませんが、ただ教室で母親とオシャベリするだけでも、「教室で話すことに慣れる」ことにつながると思います。また、春休みや夏休みの間に、教室や先生、クラスメートの写真や映像などを頻繁に見ておくことで、休み明けに登校する際の心の準備ができるのでは、と思います