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引用・参照されるときは、かんもくネットが出典であることを明記してください。(2017年11月改訂)
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場面緘黙とは

 家庭ではごく普通に話すのに、幼稚園・保育園や学校などの社会的な状況で声を出したり話したりすることができない症状 が続く状態を言います。体が思うように動かせない緘動(かんどう)という状態になることもあります。話せない場面は様々ですが、発話パターンは一定しています。場面とは「場所」「(そこにいる)人」「活動内容」の3つの要素で決まります。

 海外では、場面緘黙は小児期の不安障害であり、「自分が話す様子を人から聞かれたり見られたりすることに怖れを感じる」恐怖症の一種ととらえ治療や支援を行なうという考えが主流となっています。

 自分の意思で「話さない」わけではありません。「話せない」のです。これは誤解が多いポイントです。これまでは、「場面緘黙は大人になれば治るもの」と考えられてきました。しかし、適切な支援なく学校生活をすごした場合、長期にわたるストレス状況から、うつ的症状や不登校などの二次的な問題へとつながるケースも見られます。海外の資料によれば、たとえ発話ができるようになったとしても、成人後に社会不安障害などの不安障害に悩まされることも多く、早い時期からの適切な対処の重要性が強調されています。

教育分野・行政分野における場面緘黙

 学校教育において特別支援教育の対象です。場面緘黙は医学的区分では「(神経)発達障害」に含まれません。しかし、発達障害者支援法の支援対象に含まれています。また、2016年にスタートした「障害者差別解消法」によって、学校や職場に対して「合理的配慮の提供」の義務が明確に示されました。

診断基準

 DSM-5(2013)(米国精神疾患の診断・統計マニュアル)では「選択性緘黙」という名称で記載されています。診断基準は下記です。

1)家などでは話すことができるにもかかわらず、ある特定の状況(例えば学校のように、話すことが求められる状況)では、一貫して話すことができない。
2)この疾患によって、子どもは、学業上、職業上の成績または社会的な交流の機会を持つことを、著しく阻害されている 。
3)このような状態が、少なくとも一ヶ月以上続いている。
(これは、学校での最初の一ヶ月間に限定されない)
4)話すことができないのは、その子がその社会的状況において必要とされている話し言葉を知らない、または、うまく話せないという理由からではない。
5)コミュニケーション障害(例えば、吃音症)ではうまく説明できない,また,自閉症スペクトラム障害、統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中以外に起こるものである。

 自閉症スペクトラム障害などの発達障害とは異なります。知的障害、自閉症スペクトラム障害の場合は、そちらが優位の診断となります。言語面の問題やコミュニケーション障害が、話せないことに影響していないか、慎重な鑑別を要します。これは、他に支援すべき症状や障害を見過ごさないようにするためです。また、場面緘黙は社交不安症の一形態であるという説や、社交不安との合併が多いことが報告されています。

発症率

 調査によってばらつきはあるものの、日本ではこれまで0.2〜0.5%とされてきました。アメリカのマスコミは0.7%という調査結果をあげることが多いようです。ほとんどの報告で男児よりも女児に多くみられます。発症率のばらつきは、地域差だけでなく、調査方法(調査対象・場面緘黙の定義とその解釈・除外診断の有無)や人前で話さないことを問題視する文化かどうかも影響するのではないかと思われます。

場面緘黙症状の程度
 場面緘黙とは、特定の状況(例えば家庭)で全く自由に話せるのに、特定の状況(例えば、園や学校)で話せないことが1ヶ月以上続く状態を言います。「園や学校のクラスで、発表や音読ができない」「園や学校で、友達と話せない」「園や学校で先生と話せない」場合、場面緘黙の可能性があります。先生や大人とのみ話せる場合や、音読や発表のみ小声でできている場合は、厳密な診断基準にはあてはまらないかもしれません。しかし、少し話せている場合、かえって理解や支援が受けにくく、場面緘黙発症や他の症状発現のリスクが高まります。クラスでの孤立や不安の高まりによって小学校高学年以降に場面緘黙が出現するケースもあります。

 場面緘黙児は行動が抑制されており、たいへん大人しく見えます。学校側が困るということが少ないために、場面緘黙やその傾向があっても見落とされがちです。本人はたとえ学校で困っていても、家庭で自分の症状について話しあうことを避ける傾向があります。保護者は園や学校での状態を知らず、場面緘黙に気づくのが遅れがちです。保護者も行動を抑制しがちな気質を持っていることが多いと言われており、学校に協力を求めることを控えがちと思われます。
 場面緘黙症状の程度(発話できる範囲とその程度)を測定する場面緘黙調査票(SMQ-R) をご活用ください

発症要因
 不安になりやすい行動抑制的気質との関連が指摘されています。入園入学や転居などの急激な環境変化、発達面のかたよりや苦手領域、回避行動を助長する環境要因などが影響します。

 場面緘黙をもつ子どもの状態やその背景は多様です。発症要因は単一ではなく複数要因から生じるとされています。子どもによって異なる要因で症状が形成され、異なる要因で症状が維持されます。

 臨床場面での場面緘黙児の中には「かなりの割合で発達障害を併発している」「コミュニケーション障害を併存するケースが多い」「中には感覚統合障害が見られる子どもがいる」等の報告があります。話せない症状のために、言語や話しことばなどの発達面の評価には工夫を要します。特にコミュニケーション障害(言語障害、語音障害、吃音、社会的語用論的コミュニケーション障害)の併存は、場面緘黙症状のためにそのサポートが遅れがちなため注意が必要です。発達障害の診断はつかない、いわゆるグレーゾーンの子どもが含まれます。子どもの苦手領域や特性に合わせた働きかけを行うために、教育や福祉、医療など各機関の連携が必要です。

この障害の名称について
 DSMでは、1994年に診断名が” elective mutism”から、”selective mutism”に変わりました。”elective”という言葉には、場面緘黙児があたかも特定の場面で話さないことを「選んでいる」ような語感があり、心理学者ですらそう誤解しているような状況が広まっていたためです。自分の意志で話さないことを選んでいるわけではないことを示すために”selective”という用語が採用されました。

日本語版DSM-5では「選択性緘黙」と表記されており、この名称が多く使われるのではないかと考えられます。しかし、「選択性緘黙」という名称が、様々な誤解を招いているケースもあり、症状を適切に表現する名称について、今後も検討を要するように思われます。

障害か?個性か?

 「障害」なのか「個性」なのか、疑問に思われる方もいます。診断を受け「障害」ととらえると、保護者や本人がこの状態の情報を得やすいこと、同じ状態の子どもが他にもいることを知り孤立せずに経験を分かち合えること、幼稚園・保育園や学校の理解を得て必要な支援をうけやすいこと、など役立つ点があります。

 一方、「障害」という言葉で周囲の大人が悲観的になったり、状況を固定的に捉えたりすることは、子どもの不安をあおり、自信を失わせることにつながります。正しい理解をもち、改善への見通しのもとに、安心して楽しい時間を多く持ち、自信を積み重ねていくことが、大きな成果をもたらします。

よくある「誤解」
・大人しいだけ。ほっておいても、そのうちしゃべるようになる。(早い時期からの支援が大切です)

・おかあさんの心配しすぎでは?(園や学校から、こう言われることがよくあります)

・喋らないだけで、園や学校では問題ないですよ。(大人しく園や学校は困らないので、本人が困っていても見落とされ、放置されがちです)

・家庭の愛情不足なのでは?(虐待やネグレクト環境で場面緘黙になる子は、ほんの一部です)

・家庭で甘やかしすぎ、過保護なのでは?(古い研究にもとづいた誤解です)

・躾がなってない。(返事しないのは人を無視していると誤解されることがあります)

・わがままなだけ。(場所・人・活動などの状況によって態度が変化する点や、こだわりがあり融通が利かない点を、わがままと誤解されがちです)

・わざと黙っている。(反抗的だと誤解されることがあります)

・緘黙は内気なはず、あんな気が強い子は場面緘黙ではない。(場面緘黙の子どもの性格は様々です)

・表情豊かなのだから、緘黙ではない。(非言語的コミュニケーションを豊かに出来る子もいます)

・自分から友達の輪の中に入るよう努力すべき。(本人の努力だけは改善は難しく、適切な支援が必要です)

・1人でぽつんといても平気そうだから、無視していい。(表情には不安が現れないことがよくあります)

・話すように言うべき。(発話ばかりに注目しないことが大切です。話すようプレッシャーを与えると症状が悪化します)

・うなづきや首振り、筆談を許していたら、甘やかしになる。(非言語的なコミュニケーションを十分行うことが、発話へのステップを進めます)

・特別扱いしてはいけない。(特別扱いではなく、十分な配慮と支援が必要です)

・少し喋れるんだから、場面緘黙ではない。(少し話せる場合、かえって周りの理解が得にくいことが多いです。少し話せる子にも、場面緘黙としての対応が必要です)

園や学校での支援

 不安の少ない環境を整えること、自信を育てること、人と楽しい交流をサポートすることが大切です。

 保護者の方はまずリーフレット を学校に持参し、スクールカウンセラーや担任の先生と話しあわれることをお勧めします。教育や福祉、医療など各機関にも持参し相談しましょう。

 場面緘黙児が園や学校で困難なことは、発話に限りません。発話ばかりに注目せず、動作や非言語表出について十分な支援が必要です。

 必要な支援を探すために、「学校での行動表出チェックリスト」 をご活用ください。このリストは、おおむね「場面緘黙児に困難が少ない項目順」に並んでいます。個人差はありますが、この項目順を目安に改善が進むと考えましょう。参加でき、動作や非言語での表出行動ができるようになり、最後に発話が可能となる段階に達するのです。

 どのような支援があればその動作や行動ができそうか、それぞれの項目でできそうな参加方法を探しましょう。周囲の大人が、子どもができそうな選択肢を提案し、子ども自身が選んでチャレンジする方法をお勧めします。例えば、歌や音読を評価する時は、筆記や指さしでの実施、クラスメイトの注目が少ない立ち位置・複数人同時での実施、別室でのテスト、家庭での録音や録画利用などを検討しましょう。園や学校における場面緘黙への合意的配慮は、まだ模索が始まったばかりです。今後、対応や支援法の工夫と実践の蓄積が望まれます。

本人の症状理解

 大人になってから、自分が場面緘黙だったことを知ったという場面緘黙経験者の方が多くいます。場面緘黙症状のために、能力や個性を学校という場で発揮できないことでつらい思いをしてきました。しかしそれ以上に、場面緘黙という症状を知らずに成人したために、自分の状態への嘆きや自己否定、人と共有できない苦悩からの孤独感が募り、傷つきを深めてしまったケースが少なくありません。まず家族や教師が場面緘黙を理解し、次に本人が場面緘黙について理解できるようサポートしましょう。

 最近はマンガや絵本などの書籍やTVや新聞などのマスコミでも取り上げられるようになってきました。本人が症状と向き合えるかどうかは、周囲の理解だけでなく、タイミングの問題もあります。長期的な視野を持ちながら時間をかけて、しかしあきらめずに、子どもと共に場面緘黙と向き合っていけるようにしていきましょう。

家庭でできること
 親の過保護やしつけなど「育て方のせい」と考えるのは誤りです。しかし、症状の改善には、保護者の理解や、子どもへの接し方の工夫は欠かせません。家庭でかんしゃくが多い子どもは、言語表現の力が不足していたり、感情のコントロールの困難を抱えていたりする場合があります。相談機関等を利用して、子どもの特性に応じた接し方を工夫しましょう。子どもは園や学校で緊張や不安を抱えています。家庭における楽しい活動や身体を使った遊び、家庭内のおしゃべりやお手伝い、お稽古事や地域活動、友達との交流のサポート等を促しましょう。

 子どもの不安への対処力をつけるためには、家庭で行動レパートリーを増やしていくことが大切です。発達の伸びしろを見極め、そこに親が手を出してしまわないようにしましょう。子どもが好きなこと、できそうなことに、家庭内で少しずつチャレンジさせてます。上手くいかない時に、感情をコントロールしたり、気持ちを切り換えたり、適切な自己主張をしたり、他の解決法を考えたりする経験を積めるようにサポートしましょう。

スモールステップの実践
 スモールステップの実践は、「段階的エクスポージャー法」という行動療法や認知行動療法がよく用いられます。主に不安障害に効果があるとされています。家庭と学校が協力して、子どもが安心して話せる状況から、少しずつ話せる場所や人を増やし、学校の教室へと広げるように支援します。『楽しく・自信をつけながら・場数を踏む』ことが大切です。

 本人の症状理解、クラス理解、スモールステップの進め方については、かんもくネットの書籍をご参照ください。